ソニーカセットデッキTC-K777ESUの修理(前編)
ソニーのカセットデッキ、TC-K777ES2です。(2はUで表記しますが、Uは機種依存文字なので以下「2」と表記します)。1985年発売で定価は168,000円。当時のソニーカセットデッキの最上級モデルです。前身のTC-K777ESは名機の評判が高く、そのリファインモデルとしてのマーク2モデルですがデザインを含め大幅に変更された訳では無いので、前モデルに比べると印象が地味です。前モデルよりの変更点はFeCrポジションが無くなった事、再生アンプがディスクリート構成のDCアンプからOPアンプに変わった事等です。外観上のもっとも大きな変更点はバックパネルから大きく飛び出した2個のトランスケース(TC-K777ESは1つ)で、後のアイワXK-009等にもおそらく影響を与えたであろうその姿はいかにも高級機の証でカッコいいです。カセットデッキで「777」型番を持つものはこれが最後で、この後は「555」型番がソニーカセットデッキのフラッグシップとなります。
性能的には当時の最先端を走っており、ドルビーC搭載、クォーツロックダイレクトドライブによるクローズドループデュアルキャプスタンの走行系、銅メッキをふんだんに使った頑丈なシャーシ、独立懸架レーザーアモルファス3ヘッド(対摩耗性はあまり褒められたものでは無かった様ですが)と至れり尽くせりでした。
今回は、ハードオフで「電源入りました。動作せず。」で800円で入手。デッキメカの下カバーも無く外観もそれなりで投げ売り状態でした。
動作させてみると、電源は入りました。操作ボタンを押すとプランジャの「ガチャッ」という音はしますが、全く動きません。見るとメカ部のグリスが完全に固着している様です。ベルトも切れているかも知れません。
1時代を築いたカセットデッキのリファレンスモデルと言われる機種でもあり、まずは部品の有無をソニーのお客様サービスセンターに問い合わせてみると、もうすでに消耗部品の在庫も無くなっており、修理も受け付けられませんとの事でした。従って出来る範囲での修理にチャレンジしてみました。
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内部です。お金かかってます。高級オーディオ用パーツが贅沢に使われています。メカ部と音声基板部は分けられており、あちこちに銅メッキが施されています。音聴いてみたいなぁ。直るといいけど。
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音声回路はLR独立に組まれています。
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埃かぶってますが電源部。2基のトランスは本体より外に出ており、シールドケースに囲まれています。
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その左側にはカセットメカの制御基板があります。
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カセットメカを上部から見た所です。
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メカ部を取り出しバラし始めます。カセットドア左側より順に分解していきます。
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ヘッド部です。このレーザーアモルファスヘッドは対摩耗性が弱く、摩耗して修理に出された機体はキャノンの代替ヘッドに交換されているものが多いのですが、これはオリジナルのヘッドが付いていました。ピンチローラーは完全にグリス固着を起こしており、指で相当力を入れないと動きません。
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送り出し側ピンチローラーです。これも完全に固着しています。この頃のソニー製品に使われていた茶色というか黄色というかのグリスは固着することが多く、このグリスを使った製品はのきなみ固着による動作不良を起こしているものが多いです。CDプレーヤーのトレイ開閉不良とか。ピンチローラーにヒビが入っていますが、もう部品がありませんので、仕方なくこのままです。何か他機種でローラー部分が流用できるものをいずれ探してみようと思います。
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部品のグリス固着を丁寧にふき取りながらバラしていきます。モーターのコイル部分を取るとフライホイールが見えてきます。
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アイドラーモーターです。左側のプーリーは再生用のアイドラーに繋がっています。このベルトの代替として同じソニーのTC−KA7ESのモードベルトを取り寄せてみたのですが、残念ながら太くて短く使えませんでした。付いていたベルトはまだ使えそうだったのでこのまま使うことにします。
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グリスをふき取りながらヘッドプレートを外します。細かいローラーなどのパーツが多いので無くさないように気を付けながら作業を進めます。ヘッドプレートは裏側からEリングで止められていますので、裏返して作業しているうちに細かい部品がどこかへ行ってしまったなんて事が無いように。
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この機体のヘッド摩耗はまだ許容範囲の様でした。大切に使えばまだ持ってくれそうです。
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ベルト類を外した所です。フライホイールを抜くときはキャプスタンの軸部分にオイルシール(ワッシャ)が入っていますので無くさないようにしましょう。
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このメカは初めてバラすので、良く構造や部品の取り付け方を観察しながら慎重にバラしていきます。昔だと図をメモ書きしながらやっていたんでしょうが、今はデジカメという便利なものがあるので、写真を撮りながら進めていけるので心強いです。すでにここまででグリス固着をふき取るのに疲れるほど固着が激しかったです。左側はリール・アイドラー部です。
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リール・アイドラ部を前から見たところです。ネジ3本を取りバラします。
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早送り・巻き戻し用アイドラー(中央)と再生用アイドラー(右側)が見えました。このアイドラーを支点で固定しているピンが完全にグリス固着を起こしており、全く動かない上に外れません。これでは確かに動作するはずがありません。仕方が無いのでマイナスドライバーでテコの様にしてピンを外しましたが、今度はこのダイキャスト製のアームから抜けてくれません。最後の手段で、パイプレンチでピンとアームを挟み、ゆっくりと押し出せるだけ押し出し、出た部分をペンチで挟んでむりやり引き抜きました。可動部分なのでピンにキズを入れたくはなかったのですが、そうでもしないと抜けないほどひどかったです。
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抜けたピンとアームの支点をグリスアップし、元に戻しました。今までのが何だったんだというほどアームの動きがスムーズになりました。各アイドラーのゴムもかなり摩耗していましたが、部品は無いので、とりあえす軽くヤスリがけして、ゴム用アルコールで清掃しました。
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ちなみにアイドラーを抜いた後です。穴の部分まで固着していたのがわかるかと思います。
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新しくグリスアップしながら逆手順で組み立てていきます。ちなみにグリスは田宮模型のラジコン用セラミックグリスを使いました。グリス自体の質がいいのはもちろんですが、あまり量を使わないので少量で売られているこのグリスを愛用しています。
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一応組みあがりました。コンパクトに良くまとまっているメカだと思います。各所にアルミダイキャストが使われておりお金もかかっています。
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メカ後ろ側です。キャプスタンベルトは伸びていたので今回TC−KA7ESのものを使いました。オリジナルと比べると若干細い(約2/3の太さ)ですが使えなくは無いです。
この状態で動作させてみました。すると早送り・巻き戻しはするのですが、再生にするとリールも回らずテープも送られず2〜3秒で止まってしまいます。良く見てみるとピンチローラーがすんでのところで上がりきっていません。何度か組み立て直しをしてみましたが、状況は同じ。あと0.3ミリ程ピンチローラーが上がればキャプスタンに届くのですが・・・。。
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何度組み直しても同じ状況なので仮対策ではありますが、ピンチローラー側に細工をすることにしました。ピンチローラーを押し上げるスライドプレート側の軸に熱収縮チューブを3枚重ねで取り付け、軸厚を確保しました。これでうまくいけばピンチローラーがキャプスタンに届くはずです。
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バラック(仮り組立て)の状態で動作確認します。やったね!。なんとか動きました。心配していたアイドラーのスリップやテープ走行の乱れもなく安定して動いています。動作したついでに各スイッチ類等をチェック。壊れている機能は無いようです。
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とりあえず動作するようになりましたが、まだ仮対策の状態です。しかしながら視聴してみますと、うちのメインデッキであるアイワXK−009程のワイドレンジ感は無いものの、低域から高域まで気持ちよく出ており、原音を意識しながらも明るくパンチのある音だと感じました。さすが名機の誉れ高い機種です。
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とりあえず音が出せる所までは行きましたが、ピンチローラーの仮対策が気になります。熱収縮チューブがそんなに長く持つはずも無いので根本的対策が必要です。音は非常に気に入ったので次回もう一度チャレンジしてみようと思います。
(後編に続く)
(2005年5月 記)
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