Lo−DカセットデッキD−9の修理

 

 Lo−Dのカセットデッキ、D−9です。1983年発売。名機と推す方も多いです。定価は129,800円?だったかな?。Lo−D(ローディー)とは日立製作所のオーディオ用ブランドの名前で「Low Distortion(低歪み)」の略です。コンサートとかで機材担当の裏方さんたちをローディーと呼びますがそれとは関係有りません。

 この頃はオーディオ全盛期で一般家電メーカーもそれぞれのオーディオブランドを持ち本気でオーディオに取り組んでいました。その中でLo−Dは比較的地味でしたが独自の卓越した技術を持ち、「技術の日立」らしい製品を多数送り出しました。カセットデッキの分野ではいち早くヘッドの3ヘッド化を成し遂げ、バイアスのオートキャリブレーション機構の先鞭を付けるなど意欲的で、当時売れた数こそ多くはありませんでしたが現在でも密かなファンは多く、オークションなどでたまに出物が出ると結構な高値になるようです。

 D−9はユニトルクモーターによるダイレクトトライブクローズトループデュアルキャプスタン、チタン溶射のヒタセンライトクローズトギャップヘッドを採用した3ヘッド構成、ドルビーB・C搭載、ATRSと呼ばれるバイアスオートキャリブレーション機構と当時の先端技術をこれでもかと押し込んだ機種です。

 また、このメーカーがおもしろいのは、他社が競って採用競争しているような機構でも、己があまり効果が無いと感じたら全く関心を示さないところです。例えばこの頃はどのメーカーもシャーシ剛性やノイズ対策にこだわっていて、重い鉄板フレームやビーム、さらに全面銅メッキ等採用したり、中身も高級オーディオ用コンデンサーを全面的に採用したり等やっていたのですが、Lo−Dに至っては後のモデルも含めシャーシは普通の鉄板+ABS樹脂を多用したプラスティックキャビネットだったり、必要と思う部分にしか高級パーツは採用していませんし、出力端子も金メッキなんかされてなかったりします。重量も他社と比べると軽いです。でも、出てくる音は良いんですね。「売れる」要素の一つとして見た目も非常に重要ですからこの点他社に比べて見劣りして販売面では苦戦しただろうと想像できます。

 今回はハードオフで「電源入りました。動作しません」で500円でした。まぁ、ベルト切れでしょうと見立てました。

 動作確認してみますと、電源が入り、キャプスタンも片方回っています。まずベルト切れですね。

 ちなみに日立の関西サービスセンターに聞いてみましたが、一部のネジ類を除いて全くパーツの現存は無いそうです。ベルト類も全滅。ただし、簡易部品展開図だけはFAXで送ってくれました。ありがたや。

ネジ2本を外して上フタを開け、カセットメカ部を後ろから見てみます。ベルトが完全に伸びきってます。溶けてると掃除が大変なので幾分マシかな?。

メカを取り出すためフロントパネルを外します。メーター部のFL管基盤などが一緒に外れますので断線などに気を付けましょう。

カセットドアは樹脂製のピンで止まっていますので、ピンを破損しないように気を付けて外しましょう。

カセットドア下部も外します。樹脂パーツを折らない様に。

ヘッド前を覆っているプレートも外します。

フロントパネルを外す際、ツマミ類は事前に外しておきましょう。引っ張れば簡単に抜けます。

カセットメカはシャーシ裏からもネジで止められているのでこれを外します。

カセットメカを取り出す前に電源基盤を宙に固定してる金属の足を外します。これを付けたままだと邪魔になってメカが取り出せませんので。

足を外すと電源基盤が上に持ち上がって避けることが出来ます。

メカを床板に固定してるネジを外します。

POWERボタンと一体になっている電源用のレバーを折らないように外します。

取り出したメカ部です。

メカ裏に付いているモーター制御基盤を外すためコネクタ類を外していきます。

コネクタを外したらモーター制御基盤を外します。

モーター制御基盤を外した下のコイルプレートを外します。

その隣のキャプスタンを覆っている金属パーツも外します。

古いベルトを外し、キャプスタンを抜き、アルコールで掃除・脱脂します。この時、メカ表側のキャプスタンの根本には小さなオイルシール(ワッシャ)が入っていますので無くさない様に。キャプスタンを元に戻し代替のベルトに交換します。同様にその上のプーリーとモーターにかかっているベルトもきれいに掃除した後、代替えのベルトに交換します。

代替えベルトに関しては今回公開しません。個人でいろいろ試してやっとみつけた代替えベルトの情報を好意で公開されているサイトの情報を元に、ベルトを個人で大量に確保しオークションで売りさばく行為がまかり通っているようですので。

うちなんか訪問者も少ないので別にいいかなとも思いますが、私も今回結構いろんなベルトを買って片っ端から試したので万一でもそういう目に遭うとあまりいい気持ちしないので。すみません。

逆手順で元に戻していきます。

今度はメカ表側です。カセットドアの骨組み部分を外します。これには横にカセットドアのエアダンパー機構が付いていますので、ダンパーの部品を無くさないように。また組み付けの時にこの部分を組み付けるのを忘れないようにしましょう。

メカ部を覆っているプレートを外します。

リールからカウンターに掛かっているベルトがあります。これも伸びていましたので交換します。

アイドラーは減ってはいますが、まだ大丈夫なようです。アルコールで清掃。アイドラーが当たる側のリール外周も掃除しました。アイドラーはシーソー式になってまして、アイドラーの付いている白いパーツが写真右端のバネで引っ張られて巻き取り側リールがアイドラーと接触し駆動するようになっています。

後は逆手順で元に戻します。

元通りに取り付けて終了です。特に写真撮っていませんが、キャビネット両端と背面は樹脂です。この作りをみるとなんともはや・・って感じなんですけどね。メカ自体は非常に凝った作りになってます。最後にヘッドクリーニングと消磁で完了です。

 以上で無事動作するようになりました。視聴してみましたが、非常にまじめな手堅い音です。落ち着いて聞けるやわらかい音ですがこもったような不快な感じはありません。高音から低音までソツ無く出ている感じ。ワイドレンジでは無いですが長時間気持ちよく聞ける音ですね。

 これだけでは何なんで、簡単な紹介をしてみます。

カセットドア前面はヘッドやピンチローラー、キャプスタンの状態が見えるよう透明窓になってます。この「ヒタセンライト」ってあか抜けないネーミングが技術者集団の会社だなって感じで好感が持てます。(日立センダスト&フェライトの略だったと思う)。誇らしげな3ヘッドマークはこの時期のLo−D高級機のシンボルですね。

カセットドアの下部はこのように開くようになっていまして、下メカまわりの調整が非常にしやすい作りになっています。

自動バイアスキャリブレーション機構、ATRS操作部です。実はこの機体はATRSの測定結果を保存するメモリーのバックアップ電池が切れていまして、今回そこには手を入れてないのでこの部分は次回の課題にします。電池自体は2本足の金属端子付きCR2032が1個、メイン基盤に直付けになってますのでそれを交換します。メイン基盤裏はキャビネットの底板を外せば簡単に現れますので交換はそんなに難しくありません。どうせなら電池ホルダーにしてみたいと思います。

バイアスは手動でも調整できるようになっています。時代的にFeCrポジションが付いているあたりもうれしいところ。(フェリクロームテープ、あんまり持って無いですけどね)

この黒光りするヘッド!。対摩耗性向上のためチタン溶射されたLo−Dご自慢のヘッドです。対摩耗性自体はAKAIのGXヘッド(ガラスコーティング)には及ばなかった様ですが、Lo−D最後のモデルまで進化しながら搭載されたこのヘッドこそLo−Dの技術の集大成と言えます。

 次回バックアップ電池の交換をしましたら、また記事にしてみようかと思います。と、ここまで聴きながら書いていたのですが疲れないいい音ですね。他のLo−D機にもがぜん興味が出てきますが・・後期のモデルは高いんだよねぇ・・。

(2006年7月記)


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